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【論文7】クリスパーで特定の転写因子活性化を解析する方法

Gタンパク質共役受容体(GPCR)は、生物にとって必須の遺伝子ファミリーだ。医薬品の30~40%はGPCRを標的としたものであることを考えると、その重要さについては深く語るまでもないだろう。ただ、これほどGPCRの研究が進んでいる現代でも依然としてorphan GPCR(内因性リガンドが明らかになっていないGPCR)は存在する。

以前の記事でも述べたため詳細は割愛するが、最近はTangoシステムのように、Gタンパク質シグナリングではなく、β-ArrestinでGPCRの活性化を検出する系が広く用いられている。このシステムの利点は、GPCRと相互作用するGタンパク質が明らかでなくても活性を評価できることだ。しかしながら、このシステムは人工的に発現させたβ-Arrestinと挿入レポーター遺伝子を利用しており、評価できているのはある意味「GPCR活性化」のみであった(one ligand in, one transcription factor outが基本)。GPCR活性化に伴い、どこの内因性遺伝子が転写されるのかを網羅的に知ることはできない(one ligand in, multiple effector out)という課題があった。
それを自在に制御できる可能性を示した論文が本日紹介する論文で、スタンフォード大学からNature communicationに掲載された。タイトルは「Engineering cell sensing and responses using a GPCR-coupled CRISPR-Cas system (GPCR結合CRISPR-Casシステムを用いた細胞感知と応答の設計)」だ。

 

バイオ系の研究者でCRISPR-Cas9というフレーズを一度も聞いたことがない人がいれば、それは由々しき問題である。ノーベル賞確実の次世代遺伝子編集技術であるため、知らない方はぜひ勉強してみてほしい。

 

今回はCas9から切断活性を除去したdeactivated-Cas9(dCas9)を使用している。このdCas9はsingle guide RNAで自身を目的遺伝子領域までリクルートする点ではCas9と同様だが、標的遺伝子に結合しても遺伝子を切断しない。ただ結合しているだけである。

 

「それが何に使えるの?」と思ってしまうのが私を含め凡人達の発想であり、天才たちはこのdCas9を使ったアプリケーションをいとも簡単に思いつく(本当は苦労して閃いているのかもしれないが、凡人の私には一生かかっても思いつかないのでこの表現を使っている)。例えば、目的遺伝子領域に結合して転写阻害するCRISPR-interference1)がそうだ。siRNAを用いた遺伝子ノックダウン(RNAi)は間違いなくこの技術に取って代わられるだろう。

 

話は逸れたが、筆者らは本論文でまずTangoシステムの改良から始めており、GPCR ― V2ドメイン(β-Arrestin2結合ドメイン) ― TEV(Tobacco Etch Virus protease)融合タンパク質、およびβ-Arrestin2 ― TCS(TEV切断配列) ― dCas9 ― VPR(VP64, p65, Rtaという3種の転写因子連結体2))融合タンパク質をそれぞれ設計した。この原理システムは、まずGPCRがリガンドを認識して活性化 → β-Arrestin2がV2ドメインと結合 → TEVがTCSを切断 → dCas9 ― VPRが細胞内で遊離 →  sgRNAでリクルートされたdCas9 ― VPRが目的遺伝子を活性化する、というものだ(演者らはこれをChaChaシステムと命名した)。原理の妥当性を示すため、HEK293細胞に上記2融合タンパク質を導入した後、IL2, IFN-γ, HBB, HBGという4種類の遺伝子を活性化できるかを確認した。なお、これら4種類は元々HEK293細胞ではタンパク質発現していない。結果は予想通りで、sgRNAを変更するだけで4種類全ての遺伝子を活性化することができた。さらに、複数のsgRNAを同時に導入しておくことで、複数の遺伝子を同時に活性化できることも示した。なお、このシステムは種々のGPCR(hM3D, KORD, LPAR1, CXCR4, NMBR, ADRB2, AVPR2, TRHR)でも応用することができた。

 

要はどのGPCRでもいいからリガンドで活性化させれば、好きな遺伝子領域を活性化させることができるというわけだ。なんて素晴らしい技術だろう!この技術を使えば、例えばiPS細胞から特定細胞に分化させるときに必要な遺伝子などの解明が急速に進むと考えられる。あと、がん悪性化の原因を探る研究にも活用できるだろう。どうやらCRISPRシステムのアプリケーションは未だ尽きることを知らないようだ。これからも天才たちが素晴らしい技術を創り出していってくれることを期待しよう。

 

<引用文献、参照情報>

  1. Matthew H Larson. CRISPR interference (CRISPRi) for sequence-specific control of gene expression. Nat Protoc. 2013 Nov; 8(11): 2180–2196.
  2. Alejandro Chavez., et al. Highly-efficient Cas9-mediated transcriptional programming. Nat Methods. 2015 Apr; 12(4): 326–328.

 

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