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【論文6】酸味細胞選択的に発現する新たなプロトンチャネル

我々ヒトのような哺乳類の味覚は主に5つに分類される。甘味、塩味、酸味、苦味、うま味、の5つだ。古から生物に備わっているシステムだから当然もう解明されていると読者の皆さんは思っているかもしれないが、そんなことは全くない。味覚を担う受容システムについては、未だに明らかになっていないことが沢山ある。

本日紹介する論文はそれを示す典型例で、Scienceに掲載された。タイトルは「An evolutionarily conserved gene family encodes proton-selective ion channels. (進化的に保存された遺伝子ファミリーはプロトン感受性イオンチャネルをコードする)」だ。

我々の舌上に存在する味の受容に関わる細胞は4種類(TypeI ~ TypeIV)存在する。今回は酸味の受容に関与するとされるTypeIII味細胞に着目している。この味細胞はこれまでにPolycystic kidney disease 1-like 3 (PKD1L3)と Polycystic kidney disease 2-like 1 (PKD2L1)という広義のTRPチャネルファミリーを選択的に発現していることが知られている。これらを発現する味細胞はクエン酸などの酸味物質に応答する。PKD2L1はこれら味細胞の単離マーカーとしても使用されている。ただしこれらをKOしたマウスでは酸味物質に対する神経応答が完全に消失しないことから、酸味に関与する別の機構の存在が示唆されていた。

筆者らはこの別の機構に関与する受容分子を明らかにするため、まず酸味細胞選択的に発現する受容分子をリストアップした。具体的には、PKD2L1で酸味細胞を、イオンチャネルTRPM5で甘味・苦味・うま味細胞を単離し、シングルセルトランスクリプトーム解析を行った。これら2つのマーカーは上記味細胞群を単離する際によく使われる。この解析から酸味細胞選択的に発現する受容分子を41種類選び、カエル卵母細胞に各cDNAをインジェクションして発現させた後、低pHに対する応答をパッチクランプで測定した。その結果、Otopetrin1(Otop1)という分子が唯一低pHに応答することを発見した。このOtop1はヒト胎児腎細胞HEK293に発現させた場合でも低pHに応答した。この結果が本論文のハイライトと言ってもいいだろう。

あとはこの分子の機能解析を行っており、以下のことを確認した。
(1) Otop1はNa+, Li+, Cs+, Ca2+では応答しない
(2) この分子のファミリーはOtop1~3の3種類存在し、いずれもプロトンに応答する
(3) Otop1~3は内臓などの各種組織に幅広く発現する
(4) Otopファミリーはヒト、マウス、イヌ、ニワトリ、カエル、ゼブラフィッシュなど種を超えて保存されている遺伝子である
(5) Otop1はPKD2L1味細胞において100%の確率で発現(19 / 19 cells), Otop2~3は細胞によって発現するものとしていないものがある
(6) Otop1を遺伝子変異で機能消失させるとプロトンに応答しなくなる

「今まで報告されている事象だけでは説明つかないことがあるため、何か別の機構があるはずだ」という考え方は、サイエンスにおいて普遍的な思考だろう。ただ実際にそれを信じて、No resultで終わる可能性を知りながら、候補分子を網羅的に徹底的に調べていくのは本当に辛い。そもそもあるかもわからないものに全力で自分の時間を投資するのだ、常人なら途中で心折れるだろう。この論文は3名の研究者が“These authors contributed equally to this work(これらの筆者は平等にこの仕事に貢献した)と記述されており、途中で折れずに成果に繋がったのは複数人でトライしたおかげだろう。Otop1が低pHに応答することを発見した時の喜びはまさに感無量だったはずだ。3名の研究者に心から敬意を表する。

 

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