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【論文紹介17】水・食品中に潜伏する病原菌の種類を可視化できる低コストバイオセンサー。

要約

【論文名】
A modular yeast biosensor for low-cost point-of-care pathogen detection
低コストかつ、point of careで病原体を検出するための組み換え酵母バイオセンサー

Point of care:そのとき,その場でおこなう検査や治療

 

【論文誌】
Science Advances (IF:未算出, 2018年夏に公開予定)
2017年 6月2日掲載

 

  • 現在の一般的な病原菌検出システムはコストがかかる試薬、測定機関までのサンプル低温輸送、特殊な装置、測定技術に長けたテクニシャンが必要。
  • 測定装置や測定機関に乏しい途上国では、金銭的事情で上記システムは普及しにくいため、より簡便かつ低コスト、そしてpoint of careの検出システムが求められていた
  • 酵母に遺伝子組み換えを用いることで、病原菌が分泌する成分をセンシングして発色する酵母を開発した
  • この酵母バイオセンサーと紙を組み合わせることで廉価な病原菌検出システムの開発に成功。途上国での活用が大いに期待される。

 

論文解説

諸言

病原菌の危険性

言うまでもないが、病原菌は国際社会が総出で監視しなければならない最重要危険因子の1つだ。

これはしばしばヒトの健康や食の安全性を脅かし、バイオテロリストたちに使用されてしまったりする。

ヒトへの影響として、例えば病原菌の中でもfungal pathogen(病原真菌)は年間200万人の命を奪っている。

驚異的な病原菌は命を奪うだけでは飽き足らず、その環境の生態系を変えうる危険性もあり、「生物多様性」という観点から見ても拡散させないような「封じ込め」が必須である。

 

途上国における病原菌検出システムの制限

現在は技術の発展により、かなり高感度かつ高精度で水や食品中に存在する病原菌を検出することができる。

しかしながら途上国のような衛生環境が不十分な場所、貧しい地域ではこの検出システムを使うのは困難である。

なぜなら現在の検出システムは「高価な試薬、低温状態でのサンプル輸送、検出に必要な特殊な装置、技量が高いテクシャンが必要だからだ。

そういった国ではまず「病原菌の早期検出」よりも「生命を維持するための食事・水」の方が重要度が圧倒的に高いので、このような質の高い技術を持ち込んでも全く意味がない。

したがって、より簡便かつ低コストな検出システムが依然として求められている。

 

遺伝子組み換えの発展が進み、バイオセンサーが急速に普及してきた

 

遺伝子組み換え

人間が利用できそうな性質を持った遺伝子を発見し、それを別の生物のDNAの中に組み込んで機能改変を行うこと

 

遺伝子組み換え技術の発展によって、近年「生き物」に新しい機能を追加させることが可能になってきた。

例えば動物細胞に抗体などの有用なタンパク質を作らせるのがそれに該当する。

最近ではタバコの葉に医薬成分になり得るタンパク質をつくらせるなどの報告もなされており、この分野の発展は目まぐるしいものがある。

 

この遺伝子組み換え技術を使うことで、大腸菌や酵母などの微生物に「発色成分」を創らせることもできる。

今回筆者らはこの発想を利用して「ある病原菌が特異的に出す成分」に反応して発色する微生物を創れないか?と考えた。

 

論文内容

ビール酵母を「遺伝子組み換え」で発色バイオセンサーに変身させる

酵母にもオスとメスがいるのはご存じだろうか?酵母も性フェロモンを分泌することができ、それは同じ酵母種によって認識される。

ビール酵母(S.cerevisiae)なら、ビール酵母の性フェロモンを感じ取る。

ワインの醸造に関与するC. stellataという酵母なら、C. stellataの性フェロモンを感じ取る。

当然、ビール酵母はC. stellataの性フェロモンを感じ取ることはない。

イヌがネコの精子で受精しないように、そこは生物種によって厳密に区別されている。

 

興味深いことに筆者らは今回、ビール酵母に遺伝子組み換えを施し、病原菌が分泌する性フェロモンを感じ取れるような改造ビール酵母を創り出した。

より詳しく説明すると、病原菌が分泌する性フォロモンを検出する受容体を細胞膜上に発現させている。

さらに、この改造ビール酵母は病原菌の性フェロモンを検出するとLycopeneというカロテンの1種で、鮮やかな赤色を呈す有機化合物を分泌するようにも改造されている。

すなわち、この改造ビール酵母はある特定の病原菌性フェロモンを検出すると「赤く発色する」

 

 

病原菌検出に必要な要素を組み替えれば、様々な病原菌を可視化できる

この改造ビール酵母が特異的にある病原菌のみを検出できるかを検討するため、全11種の病原菌をアッセイに使用した。

例えば「尿路感染症の原因になるC. glabrata」の性フェロモンを検出できるようにした改造ビール酵母は、その性フェロモンの存在下において、時間依存的に赤く発色した。

この発色反応は、3時間ほどで可視化できるようになった。

一方で、その改造ビール酵母は本論文で使用した残りの病原菌性フェロモンでは赤く発色しなかったことから、非常に高感度なバイオセンサーであることが示唆された。

 

 

リトマス紙でpHを測定するかの如く、簡便に病原菌を検出できる紙センサーの開発

酵母はドライイーストなどの製品からわかる通り、乾燥してもある程度の期間は死なない。

つまりこの改造ビール酵母を「検出したい病原菌の種類数」だけ作製し、それを紙にスポットとして染み込ませておけば、検出したい時に水や食品抽出液に浸けるだけで一気に多数の病原菌の検出が可能になるはずだ。

筆者らはこの発想の元、改造ビール酵母を染み込ませた紙センサーを作製した。(今回は1種類)

機能を確かめるため、この改造ビール酵母が検出できる病原菌を混ぜた土壌、尿、血清、2%まで希釈した血液に浸けたところ、問題なく赤色を可視化で確認することができた。

 

 

10か月近い保存性

この紙センサーは廉価に検出できることが素晴らしい。

ただ、肝心なのはその保存性だ。

作製してから1週間程度しか機能が保てないのであれば、現地でその紙センサーの工場を建設する必要があり、本末転倒になりかねない。

この点は筆者達もさすがにわかっているようで、室温でどれくらい保管しても品質に問題ないかどうか、38週間室温保存したセンサーの性能を検討した。

結果、問題なく病原菌を検出して赤く発色することを確認した。

文句なしの素晴らしい結果である。

 

 

今後期待したい点

  • 検出時間の短縮化
  • さらなる保存期間の延長
  • 対応する病原菌の種類拡充
  • 院内感染症予防システムへの活用
  • 本技術を活用したベンチャー企業の設立 or 企業への技術移管

 

技術力の高さも圧巻だが、Scienceなどのジャーナル誌も低コストで検出できるこういった廉価なシステムを求めているのがよくわかる。

ガンや認知症などの分野では測定にある程度のコストがかかってしまうのは致し方ないとは思うが、感染症の検出はやはり廉価であるべきだ。

 

久しぶりに早期検出系の論文を読んだが、今回は個人的に当たりである。

将来間違いなく普及しそうな技術でもあるので企業研究者としても大変勉強になった。

やはり論文を読むのは楽しい。

 

 

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