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【論文紹介16】がん細胞は「苦いもの」が苦手?苦味物質と抗がん剤の相乗効果

要約

【論文名】
Overcoming chemoresistance in pancreatic cancer cells: Role of the bitter taste receptor T2R10
膵臓がん細胞における薬剤抵抗性の克服:苦味受容体T2R10の役割

 

【論文誌】
Journal of Cancer  (IF:2.916)
2018年 2月1日掲載

 

【新規性】

  • 膵臓がん患者から採取したがん組織で、苦味受容体T2R10の発現量が高い人は生存期間が長くなる傾向があることを見出した
  • T2R10アゴニストであるカフェインは、膵臓がん細胞株において抗がん剤ゲムシタビン・5-FUの効果を有意に増強させることを発見した。T2R10をノックダウン(KD)させると、この相乗効果は減衰した。
  • 膵臓がん細胞株において、カフェインは薬剤耐性の原因にもなるABCトランスポーターG2の発現をdown-regulateすることを見出した。

 

徒然話と論文内容

がんの中で最も最悪なのは、個人的には膵臓がんだと思っている。他のがんの治療成績が年々着実に良くなっているのにも関わらず、このがんだけは一向に治療成績が良くならない。

国立がんセンターの統計情報によると、胃がんの場合ステージIで発見できれば5年生存率は97.1%なのに対し、膵臓がんはステージIで発見できたとしても5年生存率は41.2%。早期発見できても約6割の患者の方は5年以内に死に至る。膵臓がんがいかに最悪な病気かがご理解いただけると思う。

早期発見しても5年以内に死亡する可能性を医者から突き付けられる絶望は計り知れない。早期発見がダメとなると化学療法や放射線療法になるが、残念なことに、まだ決定打になり得る治療法はこの世界には存在していない。膵臓がんの革新的治療法を開発するためにも、膵臓がんに関する知見を貯め続けることは重要だ。いつか打ち勝てる日を信じて。

 

がん細胞はこれまでに苦味受容体T2Rsを発現することが報告されている。例えば膵臓がん細胞に発現するT2R38をリガンド刺激すると、薬剤耐性の原因の一つでもあるABCトランスポーターの発現がup-regulateされる。これは苦味受容体が薬剤耐性獲得に貢献することを示唆する結果だが、実はヒトにおいて苦味受容体は25種類あり、他の苦味受容体が同様な機能を有するかどうかはまだ誰も明らかにしていない。

 

そこで筆者らはこの中でもT2R10という苦味受容体に着目し、膵臓がんとの関連性を様々な方法で評価した。詳細を以下にまとめる。

 

1:膵臓がん患者から採取したがん組織でT2R10の発現を確認したところ、発現量の差はあれど75%の割合で発現が確認された。また、T2R10の発現量が高い人は生存期間が向上する傾向にあった。

2:8種類の膵臓がん細胞株の全てでT2R10の発現を確認した。

3:T2R10アゴニストであるカフェインを抗がん剤ゲムシタビン・5-FUと共に膵臓がん細胞に加えると、カフェインを含む場合の方が有意に膵臓がん細胞を死滅させた。この効果はT2R10のKDにより減衰した。

4:カフェインはがんの増殖に関わるAktのリン酸化を阻害し、ABCトランスポーターG2の発現もdown-regulateした。これらはT2R10のKDで効果が減衰したため、T2R10が関与しているものと推察された。

 

これらの結果を考慮すると、T2R10を活性化させると抗がん剤によるがんの増殖を抑制し、かつ薬剤耐性の原因の一つであるABCトランスポーターの発現も抑制するということ。これがin vivoでも同様の結果をもたらすのであれば、T2R10を標的とした抗がん剤の相乗効果が期待できるのではと考える。

 

疑問点・今後期待したい点

1:ヒト膵臓がん細胞が発現する苦味受容体の種類は?
膵臓がんの中でも発生部位によって苦味受容体の種類は変動するのか?
がん化した際にだけ発現が増加する苦味受容体があれば興味深い。

2:ABCトランスポーターは他にも種類があるが、その他の発現はどのように変動する?
[日薬理誌 141,222(2013)]によるとヒトには49種類のABCトランスポーターがあるようだ。今回はABCG2の発現を評価していたが、膵臓がん細胞に発現するABCトランスポーターを網羅的に調べ、その発現変動を見てほしい。

3:カフェインがリガンドとなる他の苦味受容体についてはどうか?
苦味受容体は25種類もあるので調べてみたところ、カフェインはT2R10以外の苦味受容体も活性化できるらしい。では膵臓がん細胞でそれらの苦味受容体が発現していた場合、その機能は?

4:別の受容体が関与する可能性は?
個人的にはカフェインは苦味受容体よりもアデノシン受容体を活性化するというイメージが強い。膵臓がん細胞はアデノシン受容体を発現していて、それがT2R10の発現量と何らかのメカニズムで相関しているという可能性は?もちろんアデノシン受容体だけでなく他の受容体の関与を検討してほしい。

5:T2R10アゴニストはin vivoにおいて腫瘍縮小効果を持つのか?
個人的に一番興味があるのはこの部分。逆に言えば、この結果を載せていないのが少々不満であった。カフェインと抗がん剤を同時投与したら腫瘍がどうなるのかを調べることくらい簡単なはずなのに、そのデータが無いのはいただけない。カフェインで無くてもよいので、より強力なT2R10アゴニストとの併用試験を検討していただきたい。

 

 

総括

  • 膵臓がん患者から採取したがん組織で、苦味受容体T2R10の発現量が高い人は生存期間が長くなる傾向があることを見出した
  • T2R10アゴニストであるカフェインは、膵臓がん細胞株において抗がん剤ゲムシタビン・5-FUの効果を有意に増強させることを発見した。T2R10をノックダウン(KD)させると、この相乗効果は減衰した。
  • 膵臓がん細胞株において、カフェインは薬剤耐性の原因にもなるABCトランスポーターG2の発現をdown-regulateすることを見出した。

臓がん細胞が苦味受容体を発現しているという事実は大変興味深く、かつそれが抗がん剤の機能に関与する可能性があるのはサイエンスとして非常に意味深い。苦味受容体は文字通り苦いもののセンサーだ。苦いものとしての代表例には「薬」があり、膵臓がん細胞はその薬の苦さ(≒自分を殺すもの)を見分けるために苦味受容体を活用しているのかもしれない。(今回は不思議なことに、逆の結果だったが)

今後、味覚受容体とがんに関する研究がより進んでいくものと期待する。膵臓がんは全人類最大の敵の一つなので、ヤツを撲滅するためには色々な可能性があった方が良い。なにしろ今まで何をやっても倒せていないのだから。是非このグループの研究を引き続き応援したいと感じた。

 

 

※最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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