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【論文紹介14】患者由来オルガノイドはテーラーメイド医療を促進する?

 

【論文名】

Patient-derived organoids model treatment response of metastatic gastrointestinal cancers.

患者由来のオルガノイドは転移性胃腸癌患者の薬剤治療効果を予測する

 

【論文誌】

Science (IF:37.204)

2018年掲載論文

 

【新規性】

  • 胃腸癌患者由来のオルガノイドが患者に用いる薬剤の効果予測に使用できる可能性を示したこと。
  • 胃腸癌患者由来のオルガノイドを移植したXenograftマウスに対する薬剤応答性が患者の薬効を反映する可能性を示したこと。

 

 

「日本人の2人に1人は癌になる」というフレーズを耳にしたことがある人はどれくらいいるだろうか。それがどういう統計によって示されたものか詳しくないためその文章の信憑性に関しては深く突っ込まないが、このフレーズを聞いたことがある人も多いはずだ。癌は私にとっても身近なものである。それは愛する家族も親しい友人もこの病によって奪われているためで、この病気を世界から根絶したいという想いを胸に日々研究している。

 

しかしそんな想いも虚しく、さらに世界中の天才たちが束になって挑んでいるにも関わらず、この病は平然と我々をあざ笑い、今日も世界中で人の命を奪っている。なぜこの病はここまで根絶することが難しいのだろうか?

 

それは癌組織が我々の予想をはるかに超えた複雑な構造・多様な細胞群で構成されているからである。例えば抗がん剤ではよくあることだが、ある胃癌患者Aでは良く効くのに、ある胃癌患者Bでは全く効かないということがある。これは「胃癌」という言葉は同じだが、患者Aと患者Bではその癌の特性が全く違うからである。

 

癌は遺伝子の突然変異で起こるが、その突然変異が起こる箇所はいつも一定ではなくバラバラである(癌が発生する部位である程度の変異パターンはあるらしいが)。そのランダムな突然変異こそが癌の多様性を生む原因である。そのため真の治療を行うためには、患者ごとの腫瘍を詳細に解析しなければならないが、摘出による患者への侵襲性や腫瘍の解析にかかるコスト・時間がそれを阻んでいた。特に解析に時間がかかるのは致命的で、解析している間に患者が亡くなってしまうこともあるだろう。

 

また、どの薬がその患者に効くか?はバイオマーカーによる診断予測が一般的だが、その診断も確実というわけではない。予測結果から投与することを決定した薬剤が、実は全く効かなかったということもよくある話だ。だが「効くかもしれない」薬剤を片っ端から患者に投与することなんてできるはずもなく、その患者に最も効く可能性が高い薬剤をハイスループットに評価できる方法が切望されていた。

 

今回紹介する文献はそれを解決する1つの方法を示したもので、非常に研究者たちの熱意がこもった大作である。43人もの研究者が論文に名を連ねる。

 

患者から摘出した腫瘍はその患者の腫瘍プロファイルを反映しているだけでなく、実は細胞のバイオマーカーを利用することで培養して増やすことが可能である。これによって得られる腫瘍の塊を「オルガノイド」と呼んでいるが、このオルガノイドを利用すれば様々な薬剤の効果を評価できると期待されていた。しかし腫瘍から摘出して培養したオルガノイドは正確に患者の腫瘍プロファイルを反映しているか不明であり、実際に患者由来オルガノイドを使って患者の薬剤応答を予測できるかを大々的に検討した例は無かった。だから筆者達は今回それを検討した。

 

Scienceに掲載されたこともあり、その実験量には脱帽である。全部を紹介することは到底できないので、自分が面白い・新しいと思った部分の結果をかいつまんで以下に記載する。なお、このブログだけでなく是非いちど原文を読んでみてほしい。原文を理解するには根気が必要だが、これが世界トップクラスの論文ということを肌で感じられるため大変お勧めである。

 

(1) 胃腸癌患者由来のオルガノイド(Patient-derived organoids:PDOs)と、バイオプシーで採取した腫瘍の形態的情報は類似していた(H&E染色などで確認)

(2) PDOsの遺伝子変異分布はバイオプシーで採取した腫瘍と9割以上overlapしていた。

(3) 抗がん剤で効果があった患者由来のPDOsと効果が無かった患者由来のPDOsをそれぞれマウスに移植して同じ抗がん剤の効果を調べたところ、患者の薬剤抵抗性と似た結果が得られた。すなわち抗がん剤が効いた患者のPDOsを移植したマウスでは腫瘍が縮小し、効果が無かった患者由来のPDOs移植マウスでは腫瘍が縮小しなかった。

(4)   (3)の結果は患者の転移部位でのPDOsでも同様の結果が得られた。つまり原発巣だけでなく転移巣での薬剤効果予測もできるようになる可能性がある。

 

この文献によって今後達成できると期待されること、それは(4)に記載したことだと個人的には思う。癌で最も怖いのは転移である。転移した癌は原発巣にいた頃の特徴も残してはいるが、違う土壌(例:胃腸 → 肝臓)で増殖できるようになった癌は当然違う特徴が付与されている。もちろん元々の薬剤抵抗性は有したままで。そんな転移巣腫瘍に対しても、最適な薬剤を網羅的に評価できる可能性をこの文献は示してくれた。これがもっと進めば、癌のテーラーメイド治療も可能になると信じたい。

 

最近はがん免疫療法なども登場し、致死的状態から完治してしまった例もあると聞く。癌の根絶も夢ではない時代になってきたのかもしれない。その素晴らしい世界の実現に自分も何かしらの形で絶対に貢献したいと強く思う。

 

※最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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