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【論文紹介11】腫瘍の中で治療用タンパク質を合成する人工細胞

【論文名】

Synthetic cells synthesize therapeutic proteins inside tumor.

合成細胞は腫瘍内で治療用タンパク質を合成する

 

【掲載雑誌】

Advanced Healthcare Materials (IF:5.11)

2018年掲載論文

 

【新規性】

  • 無細胞タンパク質合成系システムを内部に搭載した人工細胞(lipid vesicle)が治療用タンパク質を腫瘍内で合成・分泌できることを発見
  • 腫瘍内で合成した治療用タンパク質が実際に腫瘍を死滅させることを確認

 

昨今、動物細胞の完全模倣を目指した人工細胞研究(≒合成生物学)が目まぐるしい勢いで進んでいる。
まだ細胞の機能を一部模倣する程度に過ぎないが、例えばin vitroで作製した人工膜脂質内でDNAの増幅を行ったり、特定の物質だけに反応するようにしたりなど、様々なことが可能になっている。

 

この人工細胞の構築を支える重要な技術の一つが無細胞タンパク質合成システム(Cell-Free Proteins Synthesis:CFPS)だ。
有名なものとして東大の上田卓也先生が開発されたPUREflexがあるが、このシステムは大腸菌などの微生物が行うタンパク質合成に必要な因子を細胞外で再構築したものである。
このCFPSを用いてこれまでハイスループットにタンパク質を発現させたり、宿主に毒性を示して発現困難だったタンパク質を作製したり、本来の生物では使えない非天然アミノ酸を導入したタンパク質をつくったりなど、ここでは挙げきれないほど多くのことが実施されている。

 

前置きが長くなったが本日紹介する論文では、このCFPSシステムを人工膜(lipid vesicle)に内包して抗がん活性を示すタンパク質を中で発現させることで、将来的に腫瘍内で抗がん剤を作り続けることができるのでは?という着想から本研究をスタートさせている。
最初にCFPSシステムがlipid vesicle内で機能するかどうかを確認するため、CFPSシステムとsfGFPの鋳型DNAを内包したlipid vesicleを作製してsfGFPの発現を評価したところ、予想通りvesicle内でsfGFPが発現した。
その合成効率は21~25%とやや低かった(4粒子あたり1粒子が発現する)が、最初のトライとしては問題ない数値だろう。
次にこの結果を受けてタンパク質がうまく発現する粒子の大きさを粒度分布測定により検討したところ、1.5 ~ 4.0 umの粒子が高い発現率を示すことを見出した。
この大きさは細胞が分泌するmicrovesicleの大きさと近く、なぜこの大きさだとうまく合成ができるのか非常に興味深い結果だと思う。

 

lipid vesicle内でタンパク質が合成できることを確認したので、次に抗がん活性をもつPseudomonas exotoxin A(PE) DNAを含有するPE-CFPS-lipid vesicleをディッシュ上で培養されている乳がん細胞に加えたところ、PEを発現しないvesicle(CFPS-lipid vescle)を加えた場合と比べて有意に細胞が死滅した(80%以上の死滅率)。

 

最後に乳がん細胞を移植したマウスの腫瘍部位にこのPE-CFPS-lipid vescleを直接投与した結果、細胞死マーカーであるcaspase-3の発現がCFPS-lipid vescleと比べて有意に増加した。
実際にどれくらい腫瘍が小さくなったかというデータはなかったが、POC確認のための論文と考えれば、まあそこまでのデータは無くても良いのだろう。

 

今回の論文では腫瘍部位に直接lipid vesicleを投与していたが、次のステップとして静脈注射などで腫瘍部位まで到達し、腫瘍部位特異的に薬物放出できる系の構築が求められるだろう。
そのためにはlipid vesicleの表面に抗体やペプチドなどを付加していかに腫瘍特異的にlipid vesicleを届けるかという研究が必要で、また腫瘍内部での低酸素条件・酸性条件の時のみCFPSシステムが駆動するlipid vesicleを新たに作製することも必要だと思う。
どこから手をつけるか難しいところだが、筆者たちが次の一手として何を考えているか、今後の動向に期待したい。

 

それにしても、合成生物学の発展は本当に凄まじい。
自分が今バイオ系の学生であったなら、間違いなくこの分野に飛び込んでいるだろう。
生物学だけでなく化学も物理学も薬理学も必要になるこの分野で死ぬ気でやれば、どこに行っても通用する研究者になれるはずだ。
こういう最盛期の研究分野は競争も熾烈だが、その中で自分を磨いていくのはさぞ楽しいに違いない。

 

 

 

※最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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